男・女の性が成立するには受精から思春期、青年期と続く性分化の過程を段階的に経る必要がある。これには染色体・遺伝子、性腺からのホルモン分泌、そして心理的な発育がある。
1. なぜこの世に男(雄)と女(雌)があるの?
地球上に生命体が誕生したのが約35億年前と考えられており、最初の生命体である原核生物は「性」が存在しない、雄も雌もない無性生殖であった。
無性生殖では発芽や分裂により効率よく個体数を増やせ、同じ遺伝子コピーを作れるにもかかわらず、現在の多くの生物が雄・雌の別がある有性生殖を行うようになったのは、遺伝的多様性を維持し促進できることで激動する環境に生き残れたためと考えられている。
すなわち有性生殖の配偶子形成に際し必要となる減数分裂では染色体の交差で遺伝子の組換えが行われ、同じ雌(母)からできる仔(子)に遺伝子の多様性が生じる。そのため不利な環境になったとき、一部の仔どもが生き残れる可能性が高くなり、また集団としても多様性がある方が有利となる。
さらに欠陥のある遺伝子を子孫に伝えないという面でも有利と考えられている。しかし有性生殖では、減数分裂の際の不等交差による遺伝子交換などの突然変異(例えば先天性副腎過形成など)、染色体数の異常(トリソミーなど)などを来しやすいという負の側面があるが、それにも拘わらず有性生殖は生存に有利でったため、多くの生物に広がったと考えられる。
<参考>赤の女王仮説:鏡の国のアリスの中で赤の女王が言う、「その場にとどまるためには、全力で走り続けなければならない」という言葉を受けて、進化生物学では、他の生物種との絶えざる競争・戦闘の中で、ある生物種が生き残るためには有性生殖による遺伝子組換えで常に遺伝的多様性を保持し、持続的な進化をする必要がある、という意味に用いられている。
2. 男・女への性分化A
1)受精の際の染色体の性
母由来の配偶子(卵)と父由来の配偶子(精子)が接合することでゲノムの混合が起こり、受精卵が形成される。受精卵は細胞分裂を繰り返し、胎芽・胎児として成長する。受精後7~8週までは性腺はまだ卵巣/精巣の区別がつかない状態で、胎児の外性器も男女の区別は不明瞭な状態にある。未分化性腺が性分化を始めるきっかけは、受精卵が父親からY染色体を受け取ったか否かに左右される。つまり父親の精子が性染色体として‘X’染色体を持つか、‘Y’染色体を持つかで決まることになる。
2)性腺の分化
未分化性腺を精巣に分化させるには多くの遺伝子が働くが、そのなかでY染色体上の“SRY“という遺伝子が決定的な役割を果たすことが分かっているが、この遺伝子の詳細な働きはまだ解明されていない。SRY遺伝子があることで未分化な性腺の細胞は、ホルモンを産生する2種類の細胞に分化する。ひとつは女性内性器の元となるミュラー管を退縮させる抗ミュラー管ホルモン(AMH)を分泌するセルトリー細胞と、他の一つは男性化作用を持つテストステロンを分泌するライデイッヒ細胞である。
3)性ホルモンによる内・外性器の分化
ヒトの原型(初期設定、デフォルト)は女性であり、これにY染色体(SRY)や男性ホルモンが働くと男性となる。胎児の外性器は8週頃までは男女区別がない。性染色体にXYを持つ胎児ではテストステロン(この時期には特に男性化作用の強い’DHT’)の作用で生殖結節が発育して陰茎となる。その腹側の内生殖襞は左右が合わさり尿道が形成され、外生殖襞は陰嚢となる。女子では生殖結節がわずかに成長し陰核となる。内・外生殖襞は分離したままで小陰唇、大陰唇となる。
内性器発育は抗ミュラー管ホルモンが分泌される男児では女性内性器の発育は抑えられ、このホルモンが分泌されない女児では卵管、子宮、腟の一部が発育する。卵巣の有無はこの時期の内・外性器発育には関与しない。
3. 男女の性比から <男の子は弱い、育ちにくい?>
男女の性比(男/女)を決める要因には、受精の際の性比(一次性比)と出生時の性比(二次性比)がある。ヒトの一次性比は1,1~1,7で男児が多く、妊娠経過中に男児が減少して二次性比は1,05となる。この二次性比の値は地域、時代に関わらず1,05と安定している。
死産の性比:死産とは妊娠12週以降の死児の出産を言う。1970年頃から死産数は減少しており、性比は1,1~1,5と男児が多い傾向にあったが、1995年以降には多くの地域で男女比が2倍を越えている。
地域によってはその値が2,5~3倍を越え、特に妊娠初期(12週~15週)の男児死産が急増した。原因は不明だが、松枯れ防止のための農薬散布、メチル水銀、ダイオキシンなどの環境汚染要因の可能性も考えられている。
自殺率の性比:日本では男性が女性の2倍以上、他の国でも2~4,8倍と男性の自殺数が多い。
4. 男の子の性:新生児から乳幼児
1)新生児の男の子・お母さんには“エイリアン”
女の子は自分の経験からある程度の知識を持っているのだが、男の子の外性器は知らない事ばかり。赤ちゃんも勃起する! 陰嚢が縮こまる、ダラーっと伸びる、精巣が動く!など、驚くことばかり。夫に聞いても、「・・・」と逃げられてしまう。
2)赤ちゃんの勃起
大人では性的刺激による反応だが、赤ちゃんでは性的刺激とは関係なく、オムツ替えなどでちょっとした陰茎への刺激(皮膚反射)や、尿が溜まった刺激などで反射的に勃起が生じる。ですから、赤ちゃんが「イヤらしい事を考えてる!」のではないのです。生まれる前の胎児エコー検査でも勃起現象が観察されています。
3)精巣が動く、陰嚢のしわが寄る
大腿内側や鼠径部への刺激、寒いときなどに陰嚢内で精巣が上がったり下がったりすることに気付かれるでしょう。これも男児では普通の現象で、「挙睾筋反射」と呼ばれる表在性神経反射です。
鼠径部から大腿内側に広がっている知覚神経が刺激され、それが神経を動かす運動神経を反射的に活動させ、精巣鞘膜を包んでいる精巣挙筋を収縮させ、精巣が動いているように見えるのです。寒い時にオムツをかえていると陰嚢全体の皺が強くなり、収縮します。「陰嚢反射」と呼ばれ、これも表在性神経反射です。
陰嚢皮膚はそのほかの皮膚と異なり、皮下に肉様膜という薄い筋肉層を持ち、寒冷刺激などで収縮し、皺が深くなる訳です。
挙睾筋反射は精神的なストレスや性的興奮で射精の際などの交感神経緊張時にも見られる。この反射は防御反応のひとつで、種の保存に必要な精巣を外敵から守るために発達したとされている。
5,乳幼児健診(乳幼児健康診査)で指摘されたり、お母さんが気にかけていること
1)精巣が陰嚢内に降りていない(停留精巣)
精巣はもともと腎と同じ場所(尿生殖堤)から発生する精巣/卵巣いづれとも分からない「未分化性腺」が原基である。
妊娠8~15週頃に急速に精巣としての構造・機能が備わるとともに、分泌されるテストステロンなどの影響で精巣尾部から伸びる精巣導体が膨大・短縮し、7か月頃までに内鼡径輪辺りに固定される。妊娠25~35週にかけ、神経末端から分泌される神経伝達因子の働きや腹圧などの影響で、複雑な陰嚢内への下降が完成する。
精巣が陰嚢底まで降りていない状態を停留精巣という。
停留精巣の頻度は、37週以降の満期産児では3,3~3.4%、3か月以降1歳では1,0~1,6%と、ほぼ3か月までは下降する可能性がある。37週未満の早産児では17~30%と頻度は高い。
最終的に自然下降が得られた男児を見ると、満期産児では4か月までに、早産児では6か月までに下降している。停留精巣による不都合な事は以下の如くである。
2)停留精巣で心配なこと
1)精子形成が悪くなる
精巣下降の明確な理由は未だ不明であるが、成熟した精子に発育するには腔内より1,5~2度低い陰嚢内の環境が適していることが動物実験で示されている。
陰嚢は体の外側にあり、皮膚の皺がラジエーターの働きをすることで、中の精巣温度を下げる働きがあると考えられている。停留精巣を2歳以降まで放っておくと、精子を作る細胞が少しずつ失われ精子数が少なくなり、不妊症となるリスクが高くなる。
2)精巣の悪性化
停留精巣に発生する精巣腫瘍の頻度は、一般男子の約4倍と言われている。現在は早期の手術で悪性化を軽減できるという証拠はまだ見られない。
3)その他、停留精巣に関連する問題として、精巣捻転症、鼡径ヘルニアの合併、など。
移動精巣:精巣が陰嚢内から鼠径部にまで容易に移動する状態であり、その原因は精巣挙筋の反射的な収縮と、精巣の陰嚢底への固定が弱いことが考えられている。
陰嚢内に精巣が下降していないときには、上記の停留精巣と移動精巣を区別することが大事で、停留精巣は治療が必要ですが移動精巣は普通、思春期前には自然に陰嚢内に固定されるからです。しかし、この区別は必ずしも容易ではありません。
区別するのに大切な点は、①いつ頃から気付いたのか? 出生時あるいは早期健診で指摘されたのか、あるいは後期健診以降か? ②診察時の子どもの様子、そして③自宅で入浴時や睡眠中の観察ではどうなのか?
精巣を挙上させる精巣挙筋の緊張は、その子どものテストステロンと相関があるようで、移動精巣ではこのホルモンが多くなり始める思春期前には自然に陰嚢底に固定されることが多い。
これと同じようなテストステロンの動きは出生直後から6か月ぐらいの期間にも一過性の上昇が見られる(いわゆるmini-puberty)。早期健診は丁度その時期にあるため、精巣は下降しているが、その後はテストステロン値はほとんど検出されないぐらいに低下しており、後期健診以降には精巣挙筋反射が強く現れる
健診で周囲の子どもが泣き叫んでいたり、知らない人に敏感な処を触られると緊張して精巣は挙上してしまう。健診後の精査のために紹介された病院で、これらの問いかけなしですぐに手術を勧められたときには、“second opinion”を頼むと良いでしょう。
参考)幼児期に見られる“mini-puberty”は、お母さん方が神経質になる乳児脂漏性湿疹と関連があるとの意見がみられる。この湿疹は生後2週頃から見られる皮膚トラブルの1つで、皮脂の分泌が盛んな頭部、顔面、耳介周囲などに多く見られ、1歳頃には自然に少なくなる。原因には皮脂分泌を調節している性ホルモンが6か月頃までは多いことが考えられている。
その他の原因としては、皮膚角質層がまだ薄く、皮膚からの水分蒸泄が多いためバリア機能が未熟なことや、天然保湿因子セラミドが少ないこと、発汗が多く皮膚表面のpHが中性に近いため、皮膚細菌が増殖し易いこと、などが考えられている。
3)陰嚢水腫、精索水腫
生まれたばかりの男の子では、陰嚢がぼてっと大きなことは珍しいことではない。その原因は精巣周囲に液体が貯留していること(陰嚢水腫)が多いが、お腹の中の腸が下りてくる場合(鼡径ヘルニア)もある。
簡単に調べようとすれば、室内を少し暗くして懐中電灯などの光を裏側から当て、透光性があるかどうかで分かることが多い。少しでも疑問があれば、エコー検査が確実です。
陰嚢水腫は腹腔内面を覆っている腹膜が、精巣下降に伴い繋がったまま陰嚢内に降りるために起こります。生まれてしばらくはその通り道が閉じていないこともあり、お腹の中の液体(腹水)が陰嚢内に流れ込み陰嚢水腫となります。
途中で通り道は広がっているのは精索水腫と呼ばれます。この通路は2歳頃までには自然に閉じることが多いため、陰嚢が緊満して痛がる様子があるとき以外は処置を加える必要はありません。
水腫が大きくても、そちら側の精巣発育には支障が出ません。水腫を注射器で穿刺してもすぐに再発するため、行いません。
消化管が出ている鼡径ヘルニアではしぜん改善はなく、消化管閉塞などのリスクがあるため治療が必要です。
4)おちんちんが小さい
お母さん達が意外と気にしているのがおちんちんの大きさです。とくに最近の赤ちゃんは栄養状態が良く、乳幼児期には下腹部に脂肪が厚く付いていることが多いため、陰茎が皮下脂肪に埋もれるようになり、見かけ上小さく見えることも少なくありません。
健診や掛かりつけの小児科でそれらしい事を言われるとお母さんのショックは大きいです。先天性異常やホルモン異常による小さな陰茎(マイクロペニス)では、形態とサイズだけでなく身体の成長障害なども合併しており、一見するだけで「これは問題だな」と判断できます。
それ以外の、健診などで言われて受診される子どもさん、つまり定期健診では他に問題を指摘されて来なかった子どもさんでは、単なる「個人差」の問題です。ネットや家庭の医学書などで陰茎を測って「何cm以下は小陰茎」と書かれているのを見ますが、陰茎長を実際に測るのは難しく、出典不明の平均値から数mm小さいと病的との烙印を押すことは意味がなく、返って有害です。
身体の発育や運動発達には個人差があるように、子どもの陰茎の大きさにも個人差が大きいですし、大人になっても同様にその大きさ、形は人によって実にさまざまです。お母さんが子どもの陰茎の大きさを気に掛けるのは、大人になった時にそのことでコンプレックスを持ったり、いじめられたりしないかという心配があり、その根底には「おちんちんは大きいほうが良い」というネットの広告などによる社会の刷り込みがあるためです。男女のセックスをペニスを膣に挿入することだけと考えている性産業に踊らされているためです。
参考)他の体の発育に問題がないときに、小さな間に少しでも陰茎を大きくするため性腺刺激ホルモンや男性ホルモンの注射を勧める広告を時々見ますが、医療上で必要な場合以外ではそのような処置を加えても、最終的な陰茎サイズは変わらないという学術的な報告があります。
参考)思春期近くになり低身長とマイクロペニスが見られるときには、出産時に骨盤位で難産だったかを聞き出す必要がある。その場合には、下垂体茎離断による下垂体機能不全を考慮する必要があり、小児専門施設での対応が必要となる。なお、最近は骨盤位出産に際して帝王切開が基本となっている。
・埋没陰茎:小さなペニスと間違えられやすいのが埋没陰茎で、これは恥骨前方の脂肪組織が厚く、かつ陰茎腹側の皮膚が短く包皮輪も狭いことが重なっている生まれつきの問題です。陰茎自体は発育が良いことが多く、成長と共に自然に改善することもありますが、排尿が上向きに飛び困るときや痛がる時には専門施設で相談してください。経験のない施設で包茎だけの治療を受けると困ったことになる場合があります。
6. 包茎
男の子の身体の中で包茎ほど誤った情報が広まっているものは他には少ないでだろう。家庭の医学書、マスメディアの記事から見られるのは、幼少児の包茎は早く剥いてきれいに洗うように、剥けなければ手術を勧める意見、皮被りは不潔、感染源、将来不感症になる、等々。
母親が目に入れても痛くない大切な息子の、大事なおちんちんに神経質なことを良いことに、少しでも自分のクリニックに来させようとの意図が見え見えの広告を出してある。
それに倣えと言うように、健診では「包茎です、専門の病院に紹介します」と告げられる。小児専門病院のように「子どもの包茎は放っておけば良い」ことが分かっている施設に来られる人は良いが、今でも小さな頃に手術を受け、その後に問題が出て受診される方も多い。お母さん方が心配の種になっている“子どもの包茎による不都合なこと“について医学的な見解を示す。
1)恥垢
男の子の包皮は薄いが二重の層になっており、普段見えている外側の皮膚の内側、つまり亀頭が隠れている側にも非常に薄い粘膜上皮(包皮内板)が張っている。新生児・乳児期には亀頭と包皮内板は癒着しているため、この時期には剝けておらず亀頭が隠れているのが正常である。
3~4か月頃から少しずつ癒着が剥がれはじめ、剥がれ落ちた細胞が集まり白色のチーズ状の「恥垢」と呼ばれる塊になる。これは時々膿汁と間違えられ、小児科医でさえ無理に取ろうと癒着している包皮内板を無理に剥がそうとする。
亀頭は“赤剥け”となり痛く、その後に私たちの施設に来た時には、診察を受けるのも嫌がるようになっている。
恥垢は塊を作ることで包皮内板と亀頭の癒着を自然に剥がす働きをしており、通常は無菌状態のため取り去る必要はない。
2)亀頭包皮炎
包茎のため亀頭包皮炎を起こしやすいと言われることが多いが、子どもがおちんちんを触って傷をつけた可能性が大きい。と言えるのは、炎症が治まり診察すれば、包皮そのものは柔らかく、亀頭の一部まで露出できることがほとんどである。そのため、亀頭包皮炎自体が手術の適応とはならない。子どもの爪を伸ばさないこと、そして性器いじりを見たときには手をきれいに洗う事を指導する良い機会と考えて欲しい。
尿の刺激による包皮先端の皮膚炎を細菌感染による亀頭包皮炎と間違えられていることが多い。膿の排出がなく、発赤も先端の限局的で、本人は痛がる様子もない。投薬は不要で、包皮に付く尿を微温湯で洗い流すだけで良い。
3)尿路感染症
包茎と尿路感染症の関連を強く指摘する報告が見られるが、その多くは人種・社会環境が考慮されていない統計で、衛生環境の差が大きいと推測される。以前、小児施設の専門医が集まって座談会を開いたときにこの話が出たが、包茎のために尿路感染症を発症し易いとの意見は見られなかった。例外として、何らかの先天性尿路異常(膀胱尿管逆流症など)を合併する子どもでは、外尿道口が露出できる状態にしておく方が、尿路感染のコントロールが容易になる。
4)排尿障害
包茎の子どもの数%では排尿時に包皮が膨らむ、いわゆる‘ballooning’が見られる。膨れた包皮から排尿後に尿が滴下することもある。しかし実際にはこのような場合でも、臨床上問題となるような膀胱の変形や、腎への影響が出ることは非常に稀である。
5)悪性腫瘍
これは成人になってからの衛生状態の悪さから来るもので、女性の子宮頸がん(HPV感染)との関連も述べられている。
6)性感染症
淋病、梅毒、クラミジアなどの感染と包茎との関連が述べられた報告はない。HIV感染症については、ウイルス・レセプターが包皮内板に多いと言う情報から、感染症蔓延地域で包皮を切除することが勧められているが、出生直後に多くの新生児に環状切除術が加えられている米国にAIDS患者が最も多いという現状を無視したもので、このような地域では感染の原因が性行為より医原性が多いとの事実を覆い隠す、政治的な意味合いが強いと考えられている。
7)幼小児期に包皮を後退させることによる不都合
最も多いのは、本人が
痛がっているにも関わらず、親が包皮を剥がさないといけない!との一心でむき続けることによる心理的トラウマである。包皮は薄くデリケートで、少し引っ張るだけで裂けてしまう。
また、後退させた包皮を元に戻さずそのままにしておくと、硬く狭い包皮輪のため冠状溝部で絞扼し、包皮の循環障害で強い腫脹が起こる(嵌頓包茎)。ときに亀頭の壊死に陥ることもある。
医療機関によってはこの状況が判断できず、包皮炎として処置されていたこともあった。また、原因が毛髪や輪ゴムと言った性的遊び、あるいは虐待のこともあった。
8)病的包茎
亀頭・包皮の慢性炎症と乾燥・硬化が生じる病態で、包皮は白色を呈し亀頭と癒着している(閉塞性乾燥性亀頭包皮炎:BOX)。投薬や軟こう処置には抵抗性である。我が国では稀であるが、幼小児期に環状切除術を受ける習慣のある国では高率に発症している。小児がんに対する化学療法後や、無理な包皮拡張を繰り返した後にみられることがある。
メッセージ)小児期に男の子の包皮に対する処置は不要である!
7. 陰茎外傷
- ズボンのファスナーで陰茎を挟む事故
- ペットに陰茎を噛まれた事故
- 虐待で陰茎切断
8. 性器いじり
幼児期の子どもが一人で遊んでいるときやテレビを見ながら性器を触っているのを見たとき、親御さんはとても驚いて、どうすれば良いのか焦りますよね。性器を直接いじったり、太ももをくっつけ力を入れている、性器を椅子や机に押し付ける、などの仕草で気付くことがあります。
これは髪の毛をさわったり、指の爪を噛むなどと同じような、半ば無意識に出る一種の癖で、大人が考えるような性的な意味を持っている訳ではありません。そのため、「自慰行為」と言う言葉を用いるのは少し強過ぎるでしょう。
きっかけはオムツかぶれや湿疹などで痒みがあるとき、偶然性器に手が触れ気持ち良かった、安心できた、と言うことが多いです。子どもが自分の性器を触るのは、自分の体を知りたいという気持ちに基づく自然なことと捉えて下さい。叱責して無理に止めさせようとすると、「くせ」を意識させ持続させることになります。
性器いじりが続くのは手持無沙汰を感じているときや、不安や緊張を感じていることが多いため、手を使う他の遊びに誘導したり、家の外での遊びに誘うなど、興味を他に向けてあげることです。また、子どもに対しては、性器はとても大切で傷つき易い場所なので、触る前には手や指をきれいにしておくことと、強くこすらないよう話し、自分の体のとなので、他の人が居る前で触ったり、友達には見せないように、それとなく性教育の始まりという意味も込めて話してあげると良いでしょう。幼児期の性器いじりの多くは、学童期には無くなります。
注意が必要な「性器いじり」は、続けている時間が長く、場所をわきまえないときや、情緒面、行動面に問題が加わっているときで、例えば養育状況に問題があるため子どもが愛情を求めたり、不安を抱えているときなどです。性的虐待やネグレクトの可能性も考慮しないといけないでしょう。
9,生まれた子が、男の子か女の子か分からない(性分化疾患)
近年は妊婦健検診のときの胎児エコー検査で、胎児が男・女いずれの性かを告げられていることが多いようです。しかし出産の現場ではときに、児の外性器の形から、助産師さんが一瞬判断に迷うことがある。
性分化疾患とは、性腺、内・外性器の発育が非典型的な状態と定義されており、これが最も問題となるのが出生時の性別判定の際である。
そして現場の医療者にとって大切なのは、児が生まれたときの初期対応であり、医学的診断に加え性別(養育性)への提言が必要なため、社会的緊急疾患として扱われることになる。
参考)過去には外性器が不明瞭な子どもには「インターセックス」「半陰陽」などの用語が使われていたが、これらの言葉は軽蔑的・差別的意味が潜むため、現在は国際的にも性分化疾患(DSD)という名称が用いられている。
男・女への性分化は大きく3段階に分けると考えやすく、それらは、①染色体の違い、②性腺の分化、③ホルモンによる内・外性器の分化、である。代表的な病態と分類、診断と治療などは専門書を参考にして下さい。
1)性別選択
養育上の性を検討するときには、染色体・遺伝子の性、性腺、内・外性器を重視し、できるだけそれらに一致する性(セックス)をまず考える。次にジェンダー(精神・心理的な性)を考慮した選択を考える(後述)。
家族の住んでいる地域、国、社会の考え、将来の性腺悪性化リスク、外科的治療、そして自己が決定するまで待つ、などの意見が出されている。
2)戸籍の提出
出生届には名前と性別が必要である。医療費の支払いには社会保険制度が必要で、それには戸籍登録が前提となる。出生届は出生後14日以内に届け出なければならないが、医学的な理由があることを記入した診断書があれば遅らせることも可能で、性別選択後に追完届を出すことが出来る。一旦提出された戸籍の変更は可能であるが、修正したことが残ることも考慮しないといけない。
3)医療者に必要な両親、保護者への対応
- 診断を変更することがないよう、推測を交えた安易な説明をしない。
- 判明した情報は可能な限り医学的表現も交えて提示する。
- 家族内で誰のせい、という責任者の議論が起こらないよう説明に配慮する。
10、性自認(ジェンダー)は生まれつき? 育ち?
ヒトに特有の“性別”:ヒト以外の動物の性分化は生殖=世代交代による個体の若返り現象であり、生殖における役割分担は身体的構造に基づき、性対象は異性である。これに対しヒトに特有の性別は複雑で、生物学的な身体構造上の性別(セックス)だけでなく、精神・心理的な性別(ジェンダー)が存在する。ジェンダーの最も基本的要素は、自分自身が考えている主観的な性別が、周りから見られている社会的な自分の性別と一致するという感覚(性同一性、性自認)である。