思春期・青年期男子の心の理解

元法務教官(少年刑務所・医療少年院)
臨床心理士、スクールカウンセラー 竹下三隆

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人に対する漠然とした恐怖感と自信の無さ

 A君は,刑務所に入所している20歳前の少年です。刑務所に入所してから、周りの者としょっちゅう小さなトラブルを起こしていました。そのA君がなぜいつもトラブルを起こすのかA君自身が私に語ってくれました。「本当は、人がとても恐いのですが、そういう弱い自分を見せたらなめられると思い、自分を大きく見せようといつも気を張っていました。そうすることで必死に自分を保とうとしていたんだと思います。背伸びして気を張りつめているので、心に余裕が無くストレスいっぱいで、いつもいらいらしていました。自分に自信もないので、僕のことを否定されているという気持ちになり、ちょっとしたことで人に突っかかってしまうんだと思います」と語ってくれました。さらに、「嘘をついた自分の姿を見せ,それで周囲が『すごい!』と認めてくれているときは不安もまだ少ないのですが,失敗したときには恐怖感がやってきていました。その恐怖感があったので、周りに対していつも戦闘モードだったんだと思います」と言っていました。

人に対する恐怖感と自信の無さは、思春期・青年期男子の特徴の一つなのかもしれません。

素直な気持ちを出せない

 A君は、「僕たちみたいな人に足りていないのは,寂しさを出すことや不安だということを相手に伝えるということだと思います。寂しさを出すことを恥ずかしがったり、不安を隠して強がってしまったりするから自分を苦しめてしまうんだと思います。素直に寂しさや不安を伝えることができたら、相手を怖がることもしなくていいんだと思います。そうすると,暴言を吐くことも暴力を振るうことも無くなると思います。僕は,素直になることがとても恐かったんだと思います。素直になった時に否定されたり受け止めてもらえなかったりしたらすごく傷つくし、ものすごく孤独な感じがすると思います。僕は、孤独な感じになることもとても恐かったんだと思います。やっぱり、一人ぼっちにはなりたくないです」とも話してくれました。

そのままの自分を見せることが恐い

 今私が関わっているクライアントに性犯罪をした青年(B君)がいますが、彼が私にこう語ってくれました。「本当の自分は地味だし、びびりだし、口数も少ないし、根暗だし、面倒くさがりです。そういう自分をそのまま出したら評価は下がるし、誰にも頼りにされなくなるしで、皆離れて行くんじゃないかと思っていました。人が離れて行かないためには本当の自分は見せてはいけないと思っていました。リーダーシップを取らないといけないんじゃないのかとも思っていました。そういうことにいつも気を張っていてすごくストレスがあったと思います。そのストレスを発散しようとして今回の事件を起こしたんだと思います」と。

 B君も本当の自分を見せることへの恐さといつも葛藤していたんだと思います。

心を整形しようとしてしまう

 B君が次のようにも言っていました。「容姿に自信の無い人が整形を繰り返して行くのと一緒で、内面に自信の無い人は心を整形して他人に見せようとするのかなと思います」と。「心を整形して他人に見せようとする」という言い方は初めて聞きましたが、思春期・青年期男子にはよくあることなのかなと思います。

「かっこいい男」「強い男」でありたいと必死にもがいている

 思春期・青年期男子は「かっこいい男」や「強い男」であろうと必死にもがいている気がします。思春期・青年期だけではなくて、男子は一生に渡ってもがいている気がします。そこには「かっこいい男」「強い男」でないと誰も愛してくれないという強迫観念があるのだと思います。そして、一人ぼっちになってしまう潜在的な恐怖感がいつもあるのではないかと思います。

反抗期

 思春期・青年期の男子を語るときに「反抗期」という言葉は欠かせない気がしますが、「反抗期」は「それまで親に押さえつけられ我慢させられてきた気持ちを表現する時期」と言ってもいいのではないかと思います。そういう意味では「反抗期」と言うより「自己主張期」や「自己表現期」という言い方でもいいのではないかとも思います。

  また、反抗できているということは、誰かとのつながり感を感じているからできることだと思っていいと思います。一人ぼっちになる恐さが勝っておれば反抗はできません。そういった意味では「反抗」は喜んでいいことなのだと思います。

初めは誰もがかわいい赤ちゃんだった

 赤ちゃんは人の原点であり、赤ちゃんについてよく知ることは人についてよく知ることでもあります。私は、勤めている大学での授業で時々「赤ちゃんワーク」をすることがあります。学生さんに、赤ちゃんについて思いつくことを自由に発言してもらっています。すると、「よく泣く」「あやすと嬉しそうにする」「一人では生きて行けない」等という言葉が返ってきます。人間一人ひとり違うようで、共通することがあるということにも気付けますし、どのようにして成長してきたのかも想像することができます。非行や犯罪に至る人も、他人を平気で傷つけているように思える人も「初めは誰もがかわいい赤ちゃんだった」のです

 思春期・青年期男子の心の理解の原点には「初めは誰もがかわいい赤ちゃんだった」という視点は欠かせないのではないかと思います。かわいかった赤ちゃんが人を平気で傷つける人にもなれるし、人が喜ぶことを喜べる人にもなれます。

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