思春期・青年期男子のからだの理解

小児泌尿器科専門医 島田憲次

 小学生高学年から中学生・高校生になると男女とも体つきに変化が現れ、それと共に考え方や行動も大きく変動する時期に入る。男の子では10歳頃から14歳頃を一般に思春期と呼んでおり、子どものからだから大人のからだに移行する時期である。それに続く青年期は15歳頃から25歳頃までと、日本では海外に比べ成熟に時間を要するとの考え(厚労省)から長めに設定されており、社会的にも大人になるための準備期間と捉えられている。ただしこの時期のからだと心の変化は個人、そして性別でかなりの差があるため、友達や兄弟で比較すると問題を生じることがある。また、この2つの時期には重なり合う部分が多くあるため、分けて考えることは難しく、普通は「思春期・青年期」と合わせて捉えられることが多い。

目次

1. 思春期の始まり

 男子の思春期は精巣容量の増加から始まり、陰茎増大、陰毛発生へと順を追って進む。思春期発来(二次性徴)には多くの神経内分泌因子やホルモンによって土台が作られ、最終的には視床下部から脈動的に性腺刺激ホルモン放出ホルモン(LHRH)が分泌され、下垂体前葉からの性腺刺激ホルモン(LH、FSH)分泌増加が起こり、精巣の増大と男性ホルモン(主にテストステロン)分泌を増加させることで、一連の二次性徴が始まる。男性ホルモンは筋肉量の増加、変声、発毛などの男性化を促進する。この視床下部・下垂体・性腺系の働きは、乳児期早期には思春期に匹敵するほどの活動増加がみられるが、2歳以降思春期までは沈静化した状態(テストステロン<10ng)が続く。この思春期前のホルモンの低下は、他の哺乳類に比べヒトでは極端に長く、思春期発来前に大脳皮質の発育・成熟を達成することが必要なためと考えられている。

2. 思春期の身体変化

 思春期は生殖能力を獲得する時期であり、身体的変化は生殖可能となるための準備として起こってくる。その特徴的な現象は、精巣の成熟による男性ホルモン増加に伴う二次性徴の出現と、身長の加速現象(スパート)である。この変化は必ず一定の順序に従い出現するため、これらの発現時期、順序、成熟速度は、思春期の身体変化を評価する基準となる。

二次性徴

 男子では精巣容量の増加が最初の性成熟徴候である。成人になると精巣容量は15~25mlに達し、右側が左側より少し大きく、上方に位置していることが多い。思春期に精巣容量が4ml以上(テストステロン>10ng)になると陰嚢皮膚の皺が細くなり赤みを帯び、陰茎が大きくなり始める。これから約1年で陰茎起始部から陰毛が生え始め、徐々に硬さを増しカールし始めると、腋毛、やや遅れて髭が生え始める髭は上唇の両側から生え始め、頬上部、下唇の下、下顎へと広がる。

 思春期には男子にも乳房に変化が見られる。乳頭輪が大きくなり、乳頭輪下にしこりが触れることもある。乳房腫大(女性化乳房)が見られることも稀ではない。これは思春期初期に女性ホルモンの分泌が一時的に増加するためで、男性ホルモンが増加してくると1~2年で消失する。

 変声も思春期後半から始まる。「声変わり」とは高い声が出にくくなり、反対に低い声が出るようになる体の変化で、男性ホルモンの影響で「甲状軟骨」と呼ばれる喉仏が前方に出てくるために起こる。喉仏の内側には声帯があり、喉仏が飛び出た影響で声帯も長く・太く成長するためで、声変わりすると1オクターブほど音が下がる。弦の役割をする声帯が長くなって厚みを増した結果、声質も変わってしまう。この変化は男性が求愛をするためとの説や、男性としての威厳を表現するためなどの説が唱えられている。声変わりが始まってから終わるまで3か月から1年程度かかるといわれており、なかには高校生になっても声が安定しない人もいる。声変わりの最中は、声帯の成長に周りの筋肉が追いついていない状況といえるため、以前のように通る声がでず、こもって聞こえるようになる。声が出なくてもイライラしたり焦ったりせず、のどに負担をかけないように心がけることが必要で、こもっているからと力いっぱい声をだすと、声帯を傷つける恐れがあり、大人になってもしわがれ声が残る。音楽や体育の先生にはこのことを告げておくと良い。女子やまわりの大人は変声をからかったりしないようにする。

生殖能力

 精巣容積が生殖能力の判定に重要である。精巣容積の増大は主として精子を作り出す精細管の発育によるためで、増大するにつれて弾力性を持つようになる。精巣容積の増大と精子形成能は密接な関連がある。精巣からの男性ホルモン分泌が増加すると陰茎が発育し、同時に精液成分として重要な働きをする前立腺、精嚢腺も発育を始める陰茎発育開始後1年以上経過すると自然射精(精通、多くは睡眠中の夢精)が認められる。夜間睡眠時の勃起現象中に陰茎への機械的刺激、あるいは性的な夢が引き金になると考えられている。初めの頃の精液は精子数も少なく、運動率も低いとされている。しかし、精通が全くないか、自覚しない男子もいる。

成長加速現象(身長スパート)

 思春期の身長スパート開始は、女子では9.5歳、男子では11歳頃とされている。この時期の身長の伸びは男女ともに女性ホルモンに依存しており、女性ホルモンは成長ホルモンを増加させることにより身長発育を促進し、同時に骨成熟を促進することで骨端線を閉鎖、身長発育を停止させる。女子の方が早くに身長発育が始まるが、女性ホルモン分泌開始時期と分泌量の差により思春期の獲得身長が少なくなる。思春期の獲得身長(身長スパート開始後から最終身長に達するまで)は女子が約25cm、男子は約30cmとなる。骨成長は末梢から中心に進み、手足の指が最初にスパートを始め、四肢、背骨の順に起こる。そのため思春期半頃では身長の割に手足が大きく細長くなるが、背骨は20歳過ぎても伸びるため最終的には普通の体型となる。

 その他、男子では顔面の前額部と顎が前方に突出する変化がみられ、骨盤骨と肩幅の広がりには明らかに男女の差が現れる。皮下脂肪量は女子ではどの時点でも増加しているが、男子では身長増加が最大となる年齢の前後1年間は皮下脂肪量が減少する。この時期にはニキビで悩む子どもも多い。前額部、頬、口の周り、あるいは背中に出来る発疹で、これは皮膚の毛穴の根元にある皮脂腺の分泌が、男性ホルモンの影響で活発となり、毛穴の出口が塞がれると皮脂がつまり、細菌が増殖して炎症を起こすためである。

 これらの要素が複合して、思春期以降の男女体型の差が顕著となる。

3.性の悩み

 この時期に男子が抱く性の悩みをいくつか紹介する。 

勃起、精通、マスタベーション

 男子は小学校高学年頃から男性ホルモン分泌が盛んになり、写真や動画、空想などの性的刺激で頻繁に勃起現象が起こり始める。勃起中に何らかのきっかけで射精(精通)を経験する。睡眠中に生じる射精を夢精と呼ぶ。その後、射精による快感を知ると、マスタベーションによる快感と罪悪感に向き合うことになる。性欲が強く感じられること、マスタベーションを繰り返すこと、これらはこの時期の成長が順調に進んでいると肯定的に捉えることが大切で、頻回なマスタベーションが健康を損ねることはなく、性欲の処理には最も安全である。思春期・青年期は大人の体への変化とともに、これからの自分の進む方向を考える時期であるため、性欲という本能との付き合い方、そして本能に振り回されないためにはどうすれば良いかを悩みながら成長せざるを得ない。また、マスタベーションはしないといけない、するのが当然という考えもあるが、マスタベーションなどする気にならないという男子もあることは知っておいて欲しい。

マスタベーションで気を付けることは、
①他人に見せない、見られない配慮(マナー)
②陰茎を強くしごいたり、床に押し付けるなどの強い刺激を続けると、大切なパートナーとのセックスで射精不能となることがある。

陰茎の大きさ、形

陰茎の大きさには個人差、人種差が大きいが、それは理解できても現実には友達やアダルトビデオを見て自分の陰茎の大きさや形にコンプレックスを感じている男子は多い。排尿が普通にでき、マスタベーションで精液が飛び出るのなら、パートナーとのセックスには支障はない。女子パートナーは性器の大きさには関心が薄く、それより自分にどのように優しく接してくれるかを期待している。陰茎の大きさや形はその人の個性であり、他人と比べて落ち込む必要はない。

包茎

包茎とは陰茎皮膚の先端(包皮)が狭いため、亀頭が露出していない状態をいう。小さな男の子では包皮の内側(内板)と亀頭部皮膚が生理的に癒着しており、外からの病原菌が尿道から入り込まないよう保護している。そのため無理にこの癒着を剥そうとすると、痛みを訴え、亀頭が赤剥け状態となる。包皮も傷つきやすく、瘢痕形成のため逆に亀頭部が露出できなくなる。この癒着が自然に剝がれ、亀頭全体が露出できるのは思春期後半の中学生から高校生の頃、つまり男性ホルモンが十分に分泌される頃で、その作用で包皮全体が軟らかく伸展しやすくなり、亀頭との癒着も外れる。つまり、この頃までは無理に包皮を広げて亀頭を洗ったり、手術を加える必要はない。包茎による尿路感染のリスクは、普通の健康な日本の男子では心配無用で、陰茎がんのリスクが上がるというのも根拠がない(参考:陰茎癌のリスク因子は高齢になっても包茎が続くという不潔な身体状況に加え、女性の子宮頸がんの原因であるヒト・パピローマウイルス感染と考えられている)。高校卒業頃になっても、まだ包皮が剥け難いときは、自分の指で少しずつ包皮を後退させる訓練を始めると良い。多くの場合、この訓練だけで包皮を広げることができる。

この際の注意は、勃起していないときから始めること、後退させた包皮はそのままにせず、元のように亀頭を被った形にしておくことである。まだ広がりが悪い包皮を後退させたままでいると、亀頭部と包皮が”首くくり“の状態となり(嵌頓かんとん包茎)、循環障害のため腫れて緊急手術まで必要になることがある。剥ける時期はとても個人差が大きいので中高生の時期に、剥けていないからと言ってネット広告にあおられて手術をしないように。ちなみに、剥けていなくてもセックスできるし、かならずしも手術が必要ではない。

このように思春期・青年期は子どもの体が大人の体へと急激な変化を遂げるときであり、その始まりの時期や変化の進み方には個人差が大きいことを理解して欲しい。自分の体のことで悩む時期であり、悩みながら大人になることが必要な時期なため、やたらノウハウ式の指導書や、「・・・で悩まないため」式のネット記事に惑わされないで、自分の進む方向をしっかり打ち立てて欲しい。 

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